〜 自分の内に吹いている 風の響きに耳を澄ます 〜

エッセイ「ひかるなみのまにまに」

エッセイ


ひかるなみのまにまに(2005夏)


ひかるなみ

もくじ

  1. 家を探す
  2. おひるねじかん
  3. 仕事を探す
  4. 仕事を創る


1:家探し


2005年6月14日、梅雨の真っただ中
石垣島からジェットコースターのように揺れる船で1時間半
波照間島に到着しました。

素泊まり一泊2千円のドミトリーの宿に泊まり
波照間での生活がはじまりました。

波照間に来る旅行者は、たいてい自転車で島を一周したり
海へ出かけたり、星空観測センターへ出かけたりするのですが
私は「波照間に旅行に来たのではない、暮らす為に来たのだから
さぁ暮らしましょう。」と

毎日、宿の自炊室で料理をしたり、洗濯や掃除をしたり
自分に割り当てられた1.5畳ほどのスペースをしつらえたりしながら
淡々と暮らすことをただ純粋に楽しんでいました。

もちろん、いくら一泊2千円とはいえ
ずっと宿で暮らせる程の経済的余裕はありませんから
長期滞在で安く借りれる家を、翌日からさっそく探しに出かけました。

波照間に行こうと決めた時からなぜか
ギリシャのエーゲ海に浮かぶ島々の写真集にある
「白壁にブルーの扉の付いた小屋のような家」の映像が
頭の中でピカピカしていました。

だからきっとそういう家を借りるんだな〜とか
「アトリエも兼ねれるようなフローリングの部屋に、和室もあって
ミニキッチン付きの、小さめのお部屋がいいな」とかとか
好き勝手なイメージを克明に描いて
お空にリクエストを飛ばしていたのでした。

まず役場の出張所に出かけて聞いてみたところ
「借りれる家はまずないと思いますよ。」と言われ

何件かの飲食店でも尋ねてみましたが
「島の者でも家がなくて困ってるくらいなのに
そんなふらっと来た旅行者が借りれるわけないだろう」と言われ
どこへいっても「あはは、無理無理」という感じでした。

延泊延泊で、あっという間に5日間が過ぎ
「このまま見つからなかったら、あと2週間程でお金も無くなるし‥
帰らないといけなくなるなぁ。安く家を借りて、アルバイトでもしながら
3~4ヶ月は滞在しよう!と思い描いて来たのに・・・甘かったのかなぁ。」
とだんだん心細くなってきました。

でもどこか静かな気持ちで「きっと見つかる」と信じているところもありました。

家を探していることを島の人にせっせと伝えつつ
宿での「生活」を楽しみながら、朝に夕にお空に向かって
「素敵な家が見つかりまして、ありがとうございます!」と
先取り感謝を毎日つづけておりました。

そうしたらですね、ナント!
滞在6日目の夜に貸してもらえる家が見つかったのです。

着いて3日目に友達になった加那ちゃん
(奈良から波照間にお嫁に来た女の子)から連絡があり

「隣の家のおじいさんの離れがどうも空いているようだったから
ちょっと聞いてみたら、『いいよ連れておいで』って!」

さっそく行ってみたら、なんとなんと驚いた事に

「4.5畳のフローリングにベッド付き、3畳の和室と2畳のキッチン
そして専用のトイレとシャワールームまでついた新築の小さな離れ」
だったのでした。しかも外壁は白くて木戸がブルー…。

普段から結構、不思議体験に馴れている私も
このときばかりは余りのことにクラクラきました。

2ヶ月の約束でさっそく翌日から入居。
ガス水道電気代込みで月2万円でいいとのこと。

その家は、一人暮らしのおじいさんの家の離れで
「冷蔵庫は母屋の台所にあるから一緒に使ったらいいし
中にある食材も好きに使っていいよ
ご飯も炊飯器に炊いているから自由に食べたらいいさぁね」とのこと。

「それって、つまりご飯付きで月2万円???もう、わけがわからないよ~」
と思いながらもひたすら「ありがとうございます!」と
おじいさんと加那ちゃんとお空に感謝して
いよいよ波照間暮らしが本格的に始まりました。



2:おひるねじかん


波照間の空気はさわやかで柔らかです。
日中は日差しが強いけれど、日陰にさえいれば、風がさーっと吹き抜けて
京都の夏より過ごし易いと感じる程でした。

波照間の人は誰も家に鍵をかけないそうです。
「島に泥棒なんていないからねぇ~」と。家は開けっ放し
車は鍵付けっぱなし。こんなに安心して暮らせるっていいですね。

また、島の人はみんな、毎日かならず午後のお昼寝をするのです。
その時間は島に数軒ある集落ごとの何でも屋さん(パン屋さんとか電気屋さん
とかいう専門店はありません)も食堂も、しーんと閉まっています。

大人がみんな毎日お昼寝してるなんて、とても素敵なことだと思います。

私は「おひるねカフェ」で、大人のお昼寝時間を提案したりしていたけれど
ここでは当たり前の暮らしの中にそれがある・・・。
柔らかな衝撃でした。

ところでお昼寝といえば、波照間に着いてはじめて海に行った日
浜の木陰でお昼寝をしようとしたのに、どうも気持ちがわさわさして落ち着かず
全然眠れないということがありました。

静かな浜辺に私一人、お天気もいいし、お昼寝には最高のシチュエーションなのに
どうして・・・?と思った時、ふと自分のからだに緊張があることに気づき
はっとしました。

以前『乳母車カフェ』で子守歌のコースをしていた時、受けられた男の方が
「今日、子守歌を聴きいて、自分のカラダの緊張に気づきました」
と言われた事を思い出し、「あれと同じだ!」と思いました。

波照間の浜辺の柔らかく溶けるような緩やかな空気に包まれて
普段気づいていない自分の緊張に気づけたのでした。

そのことを受けとめたら、不思議な事にすぅーっと深く眠れました。

目が覚めた時、カラダの緊張は消えていて
波照間の空気とチューニングが合っていました。

その日から、風が吹いただけでしあわせを感じるようになりました。



3:仕事を探す


さて、家が見つかったので「次は仕事を探しましょう」と
また役場の出張所や、デイサービスセンター、飲食店と回りましたが
どこも仕事はないとのこと。

5~6軒ほど回って断られた時
パチンと頭の中でチャンネルが切り替わる音がして
ふいに愉快な気持ちがこみ上げてきたのでした。

「ははーん。これは安易にアルバイトを捜すな、ということなのかも。
私は常々『自分の持っている能力で仕事を創り出して食べていけるようになりたい!』
と思いながら、街に暮らしていれば、いくらでもアルバイトなんてあるものだから
ついつい安易に(?)働いてしまっていた。けれど、ここではそうはいかない。
これはもしかしたら今までの自分を越えるチャンスかも!」

さっそく家に戻り、この島で何を創り出して収入を得る事が出来るだろうか?
誰を対象に?と考え始めました。

まず「観光」そして「おみやげ」が浮かびました。
そういえば「波照間」と書いてあるTシャツやポストカードはあるけど
それって言ってみれば、ただの文字、もっと波照間らしさが感じられるような
何かを創れないかな?と考えました。

いったい波照間らしさって何だろう?
波照間ってこれといって観光名所があるわけでも無い。
日本最南端ということのほかは、海がきれいで星がきれいというぐらい。
それなのに結構人気があって旅行者が年間通して訪れるらしい。

皆、一体何に惹かれて来るんだろう?
私は何に惹かれて来たんだろう?
みんなは、そして私はこの島に来て何を感じているんだろう?

と自分自身に問いかけたら
この島には『これ』と言葉ではっきりと伝えにくい魅力が確かにあるな
と思ったのです。

その目に見えない、言葉にしにくい『何か』をカタチにして
波照間を訪ねて来た人々に提供できないだろうか・・・。
その夜はその想いを胸に眠りました。



4:仕事を創る

 
次の朝、目が覚めたら、何かココロに「!」と感じるものがあり
さっそく絵の具とポストカードサイズの画用紙を持ち、浜に出かけました。

波照間での私の一番おきにいりの場所は
浜の一番奥にある『神様みたいな木の下』です。
そして浜に出かけると必ずそこに自分のお部屋を作っていました。

浜でのお部屋の作り方は、砂浜に打ち上げられた海藻や貝殻、流木やゴミを
きれいに取り除き、白い砂だけにして、木陰にお昼寝用の布を広げて出来上がりです。

海岸はお掃除するだけで「庭」になります。
そこに布を広げると「お部屋」になります。

木陰のお部屋が出来上がると、水筒に入れて来たお水をグラスに注ぎ
持って来たお菓子やおにぎりを並べてお供えをし、神様の木に向かって
「今日もここで素敵な時間と空間を過ごさせていただき、ありがとうございます」
とお礼を言います。そうしてから「いただきます」をして
お水をいただき、おにぎりやお菓子をいただきます。

これは波照間に来てから、私の中で自然と生まれた儀式のようなものでした。
別に誰に見られる事もなく、いつも私がただ感じる島の自然の神様と一緒に
それを楽しんでいたというだけの、おままごとみたいな儀式です。

後はごろんと横になって、きらきらと光る波を眺めます。
仰向けになると神様の木の葉っぱがお日様の光で黄緑色に透けて風に揺れています。

梅雨の明けた波照間の風は本当に爽やかです。
あんまり気持ちが良くて、ついうとうとしてしまいます。

浜辺には見渡す限り誰もいません。しずかです。
このしあわせな空気の中で、2枚のカードが生まれました。

「ひかるなみのまにまに」というタイトルの光る波の絵のカードと
「神様みたいな木の下で うたうたと うたたねをいたしました」
という言葉を添えた、木漏れ日の絵のカード。

その日はそのあと続けて3枚のカードを制作しました。

「あの海の向こうに あの空の向こうに」
「てんてんてんと まんてんのほし 月に座りましょう ぽし」
「さわさわと さとうきびが ただ風にゆれている」

出来上がった5枚のカードを眺めながら、「さぁこれをどうやって印刷して
商品にしたらいいものか、どこで売ったらいいものか」と悩んだ末
波照間にとてもお洒落な感じで手作りのアイスクリームを出したり
素敵な雑貨も扱っている「こやぎ食堂」(仲底商店)というお店があるので
「そこの奥さんのミキさんにとりあえず相談してみよう」と
軽い気持ちで持って行ってみました。

そうしたら、私の描いた5枚のカードを静かにじーっと見てからふと顔を上げ
「これすごくいいよ。ウチから出さない?」とおっしゃったのです。
「??? うちから出すってどういうこと?」

つまり、私には最初にデザイン料をくださり、お店の方で印刷をかけ
商品化して販売していただけるというのです。

私は在庫を抱えずともよく、自分でも商品が欲しければ原価で分けていただけ
お店の方で増刷する時にはその度にデザイン料をくださるという
思いがけない好条件で・・・。

あまりの展開の速さとありがたさに
またもや狐につままれたような気持ちになりながら
奥さんのミキさんとお空に向かって「ありがとうございます」と
深く感謝したのでした。


「ひかるなみのまにまに」

波照間のなにげない 日常の中に
やわらかな やさしい空気の中に

私たちを コトンと シンプルなところに
戻してくれる 何かがあるような気がして

耳を澄ますように
カラダとココロを澄ましてみる

ゆれる音の波間に ひかる波の間にまに




ひかるなみ


神様の木


空と海


月ぽし


さとうきび


(2006.08)



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