〜 自分の内に吹いている 風の響きに耳を澄ます 〜

海のような森のおくに

海のような森のおくに

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海のような森のおくに 

透きとおったからだに
ふわふわと

やわらかく
揺れる布をまとった 

女の子とおばあさんが 
ふたりで
そっと暮らしていました

毎日ふたりは森の中を 
あちらこちらと散歩します

女の子は 
コケの上や葉っぱの先や
クモの巣について
まんまるくなって遊んでいる 
小さな水の玉たちが大好きでした

キロリロリン 
ピロリロリン 
コロリロリン

水の玉たちはくるくると 
からだを回しながらうたいます

女の子は 
この子たちのうたが大好きでした

水の玉たちも 
女の子のことが大好きでした

女の子はまた 
光に透ける葉っぱが好きでした

いろんな色が重なりあって 
ゆらゆらゆれるのを見るのが
好きでした

女の子が森の中を歩くと 
葉っぱたちはいっせいに
ゆれはじめます

水の玉たちは 
はしゃいでくるくるとうたいます

光のすじが
あちこちに差し込んで 
風が走ってゆきます

小さな生きものたちは 
女の子に見つけてもらおうと
あちらこちらから顔を出します

女の子は
何か新しいものを見つけると
とても嬉しくなって
心の中で「こんにちわ」と言います

みんな「こんにちわ」が好きなので 
女の子のまわりを 
くるくると踊りまわります



おばあさんは女の子に 
森の中をそっと歩くことだけを
教えてきました

そっと歩くと
ちいさなものを見つけることができます

そっと息をしていると
ちいさな声が聞こえてきます

そしてなにより

みんな 
そっとふれられることが
大好きだからです

ふわふわと
ゆらゆらと 
きらきらの中で

女の子も森も 
とてもしあわせでした

ある日おばあさんは 
女の子にいいました

いいかい 
よくお聞き

いつもいつも 
どこにいても 
どんなときでも

今ここに 
全てはあるんだよ

森の中とおんなじさ

刻一刻と 
全てのものは変化して

色もカタチも 
変わっていくよ

そうしてね

あの時あったのに 
今はないとか

ここにはないけど 
どこかにはあるとか

そんなことに 
気持ちをとられていると

今まで見えていたものが 
見えなくなってしまうんだよ

どんなに変わろうとも 

今ここに 
全てがあるんだよ



(2000年初夏)





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